金融デリバティブ問題について

弁護士 髙橋信雄

 

 

はじめに

 今回は、昨年来の円高ドル安により、長期のデリバティブを導入していた中小企業等で巨額の為替損失が発生するなど社会問題化しているデリバティブ取引を中心に解説したいと思います。

 

1、デリバティブ取引とは

(1)、デリバティブ取引とは、金融商品取引法上、金融商品(有価証券、預金債権、通貨等)を原資産とする、若しくは、金融指標(金融商品の価格、金融商品の利率等)を参照指標とする先物取引、オプション取引、スワップ取引等、又は一定の事由を支払原因とする取引等と定義されています。この定義だけでは具体的なイメージも湧かず、何のことか良くわかりませんが、要するに、金融工学を駆使し、伝統的な金融取引(借入れ、預金、外国為替等)等のリスク回避を目的として開発された金融商品の総称であると理解しておけば良いでしょう。スワップ取引、オプション取引等を組み入れた商品が代表的です。

 

(2)、デリバティブ取引の問題点

 こうしたデリバティブ取引は、①わかりにくい、商品内容が複雑、②リスクが大きい(市場リスク、流動性リスク)、③大手銀行、大手証券会社等一般的に信用の高い金融機関が取り扱っているので、安全な商品であると誤認しやすい、等の問題点があります。

 長期のデリバティブを導入していた中小企業等において、昨年来の円高ドル安により巨額の為替損失が発生し、社会問題化していますが、これらの問題点が一挙に表面化したと言えるかもしれません。

 

2、代表的な商品の解説

(1)、通貨オプション取引

 将来、ある通貨を特定の価格で購入、または売却する権利を売買する取引をいいます。

 通貨オプションの購入は、オプション料を払って、将来ある通貨を特定価格で購入(コールオプション)もしくは売却(プットオプション)する権利を買うことを意味します。反対に通貨オプションの売却とは、オプション料をもらって、将来ある通貨を購入もしくは売却する権利を売ることを意味します。

 オプションの売り手は、損失無限大のリスクを負担するので注意を要します。 数年に亘る長期の通貨オプション契約を結んだため、昨年来の円高ドル安で多額の為替損失を抱えている企業が発生し、社会問題化しています。

 

(2)、金利・通貨スワップ

 銀行等が、顧客との間で相対で行なっている金利交換の取引(変動金利と固定金利の交換等)です。金利スワップは同一通貨間の、通貨スワップは異種の通貨間の元利金を交換するものをいいます。異種の通貨の金利だけを交換するものは、クーポンスワップといいます。

 クーポンスワップを使って、5年から10年もの超長期の為替予約を行なうことができます。契約が長期になればなるほど、為替変動リスクは高まるので、巨額の為替損失を被るリスクを抱えることになります。

 通貨オプションの例と同様に、数年に亘る長期のクーポンスワップ契約を結んだため、昨年来の円高ドル安で多額の為替損失を抱えている企業が発生し、社会問題化しています。

 

3、金融商品取引法、金融商品販売法による規制

 導入する企業にとって、様々な問題点を抱えるデリバティブ取引ですが、「金融商品取引法」や「金融商品の販売等に関する法律」(金融商品販売法)等によって、セールス・販売する金融機関には一定の規制が掛けられています。主な行為規制である適合性の原則、説明義務について以下説明します。

(1)、適合性の原則

 金融機関は、デリバティブの勧誘に際し、顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行ってはなりません(金融商品取引法40条1号)。

 これを踏まえ、金融庁の監督指針等においても、銀行は、提供するデリバティブ取引がヘッジ目的の場合、顧客の事業の状況(仕入、販売、財務取引環境など)や市場における競争関係(仕入先、販売先との価格決定方法)を踏まえても、継続的な業務運営を行う上で有効なヘッジ手段として機能すること及びヘッジ手段として有効に機能する場面は、契約終期まで継続すると見込まれることを確認することが義務付けられています。

 

(2)、説明義務

 銀行は、デリバティブ商品の販売に際し、金融商品販売法等に基づいて、①元本欠損が生ずるおそれがある旨、②市場リスク、③取引の仕組みのうちの重要部分等について説明を義務付けられています。

 これを受けて、金融庁の監督指針は、銀行に対し、①デリバティブ取引の対象となる金融指標等の水準等に関する最悪のシナリオを想定した想定最大損失額及び前提と異なる状況になればさらに損失が拡大する可能性及び②デリバティブ取引を中途解約すると解約清算金が発生する場合には解約清算金の内容(金融指標等の水準等に関する最悪のシナリオを想定した解約清算金の試算額及び当該試算額を超える額となる可能性がある場合にはその旨を含む)等について、顧客にとって分かりやすい説明を義務付けています。

 

(3)、違反の効果

ア、適合性原則違反、説明義務違反が認められれば、銀行の不法行為による損害賠償義務が認められることがあります。

 

イ、デリバティブの契約締結時期が、改正金融商品販売法施行後(平成19年9月30日)であれば、説明義務違反により同法5条から直接損害賠償義務が認められます。

 

4、デリバティブのトラブル予防策

 金融機関からデリバティブ商品をセールスされた場合、その商品内容の説明をよく聞きましょう。特にリスクが限定されているか、あるいは無限大か、最大損失額がいくらか等リスクの所在を理解することが大事です。それでも理解できない商品には手を出さないようにしましょう。また、実際の需要に基づかない投機目的のデリバティブ取引は、原則として導入すべきではありません。

 その他、取引銀行からの融資との抱き合わせセールスは、独禁法違反(優越的地位の濫用)の可能性があります。そのような場合は、弁護士への相談をお勧めします。

 

5、もし、デリバティブ問題でお困りの場合は

 もし、既にデリバティブ問題でお困りの場合は、金融ADRの活用や訴訟という方法が考えられます。ただし、いずれの方法をとるにしろ、紛争や対象とする商品の内容が複雑で、金融デリバティブの専門的知識を有する専門家の助力が不可欠です。

 当職は長年の金融機関での勤務経験からデリバティブ問題に関し、数多くの知識経験を有しています。どうぞお気軽にご連絡・ご相談ください。(担当弁護士 髙橋信雄まで)

(2011/2/29掲載)